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知財裁判例紹介:
実施可能要件の前提問題としてクレーム文言を技術常識を参酌して限定解釈した事例(知財高裁平成23年7月27日判決・平成22年(行ケ)10306号(置棚))

知財高裁平成23年7月27日判決・平成22年(行ケ)10306号は、実施可能要件と文言解釈(クレーム解釈)について面白い判断をしています。実施可能要件を判断する前提問題として、技術常識を参酌してクレームの文言(「外管に内管を伸縮可能に挿通してなる」)を限定解釈した事例です。

第1 判決の引用
「第4 当裁判所の判断
1 特許法36条4項違反についての判断の誤り(取消事由1)について
 原告は,特許明細書は特許法36条4項に違反するものであり,同規定の要件を満たしていると判断した本件審決には誤りがあると主張する。しかし,以下のとおり,原告の主張は失当である。
(1) 事実認定
(中略)
(2) 判断 
 本件発明1において,左右の支脚間に前後に架橋した棚受用横桟は,外管と内管から構成されている。このような構成を採用した趣旨は,横桟の全長を適宜調整できるようにするため,外管に内管を挿通して,外管を伸縮可能とするためであると解される。したがって,外管と内管について,このような構成を採用した趣旨に照らすならば,1本の管と同様の強度が得られるようにするため,外管と内管が接触するように挿通させるということは,当業者の技術常識から当然のことといえる。
 また,上記のとおり,特許明細書の【発明の実施の形態】には,内管の外管に対する挿通長さが長くなる分,横桟全体を強固とすることが可能であるから,内管はより長めのものを採用することが好ましいと記載されている。これは,内管が外管に挿入されて重なっている部分においては,内管と外管が接触していることにより強度が増すという趣旨であると理解するのが合理的である。
 さらに,本件発明1においては,固定棚の先端の円形孔からなる支持部に外管をその伸縮に応じて摺動自在に挿通すると共に,着脱自在な取替棚を前後の外管上に掛止する構成を採用する。そして,本件発明1は置棚に係る発明であり,固定棚及び取替棚の上には物を載置することが想定され,固定棚及び取替棚の上に物が載置された場合には,固定棚の支持部に挿通し,取替棚が掛止している外管に対し,上方から力がかかり,より強度に内管と接触することとなる。
 以上によると,内管が外管に挿入されて重なっている領域では,外管と内管は力を伝えるように接触しているということができる。そして,本件発明1では,外管と内管が接触するように挿入され,固定棚の支持部に外管が摺動自在に挿通していることから,固定棚を水平に維持することが可能となる。
(3) 原告の主張に対して
ア 原告は,特許明細書の請求項1には,外管と内管の関係について「外管に内管を伸縮可能に挿通し」と記載されているのに対し,固定棚の先端の支持部と外管の関係については「支持部に対して上記外管をその伸縮に応じて摺動自在に挿通し」と記載され,「摺動自在に」の語句の有無を使い分けていることから,外管と内管は接触しない状態で挿通すると解すべきであると主張する。
 しかし,以下のとおり,原告の上記主張は採用できない。
 確かに,特許明細書の請求項1には,固定棚の先端の支持部と外管の関係について「支持部に対して上記外管をその伸縮に応じて摺動自在に挿通し」と記載されているのに対し,外管と内管の関係については「外管に内管を伸縮可能に挿通し」と記載されており,「摺動自在に」とは記載されていない。しかし,外管と内管の関係については単に「挿通し」と記載されているだけであって,特許明細書及び図面に,「挿通」に関して接触しない状態で挿通するものに限るとの制限を加えるような記載はない。また,摺動自在に挿入する場合であっても,外管と内管との間に一定の隙間は必要であるところ,原告主張のように外管と内管が接触しないようにするためには,この隙間を大きくする必要があるが,特許明細書及び図面に,外管と内管との間の隙間について条件を加えるような記載はない。そうすると,外管と内管の関係について「摺動自在に」の語句がないことに格別の技術的意味はないというべきである。
(中略)
(4) 以上のとおり,特許明細書の発明の詳細な説明には,本件発明1ないし3に共通する固定棚を水平に支持するとの構造につき,当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているといえ,特許法36条4項の要件を満たすものであり,原告主張の取消事由1は理由がない。」

第2 私のコメント
1.原告(敗訴した方)は,特許明細書の請求項1の「(上記棚受用横桟は)外管に内管を伸縮可能に挿通してなる」との文言は「外管に内管を接触しないように伸縮可能に挿通してなる」という意味であるとした上で,上記棚受用横桟が「外管に内管を接触しないように伸縮可能に挿通してなる」ものであるときは外管と内管とが荷重を支えあう関係にないため「固定棚を水平に維持すること」が実施できないので実施可能要件がないと主張しました。

2.これに対して,本判決は,本件発明が棚受用横桟を外管と内管とから構成した趣旨は,外管を伸縮可能として横桟の全長を適宜調整できるようにするためであるところ,そのような趣旨に照らすならば,1本の管と同様の強度が得られるようにするため,外管と内管が接触するように挿通させるということは,当業者の技術常識から当然のことであると認定しました。

そして,このような技術常識の認定から,特許明細書の請求項1の「(上記棚受用横桟は)外管に内管を伸縮可能に挿通してなる」との文言は「外管に内管を接触するように伸縮可能に挿通してなる」という意味であると解し,その上で,本願発明では,上記棚受用横桟が「外管に内管を接触するように伸縮可能に挿通してなる」ことから,外管と内管とが荷重を支えあう関係にあり,「固定棚を水平に維持すること」が実施できるから,実施可能要件を満たすと判断しました。

このように,本判決は,明細書本文の記載と技術常識を参酌してクレーム文言を解釈し,このクレーム解釈に基づいて実施可能要件を肯定しました。
つまり,実施可能要件についてクレーム解釈が決め手になった事例といえます。

3.なお、この判決では、実施可能要件を判断する前提問題として、実施例の文言の解釈ではなく、クレームの文言(「外管に内管を伸縮可能に挿通してなる」)の解釈を行なっています。これは、おそらく、原告の主張が「クレームが実施可能でない部分を一部に含むから実施可能要件がない」というものだと捉えた上で、クレーム文言を限定解釈することにより「クレームの全体が実施可能だ」としたものなのでしょう。

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