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知財裁判例紹介:
新しいタイプの阻害要因を認めた事例(知財高裁平成24年7月17日判決・平成23年(行ケ)10098号)

知財高裁平成24年7月17日判決・平成23年(行ケ)10098号は、従来の阻害要因と新しいタイプの阻害要因との2つを判断した珍しい判決です。

第1 判旨の一部

「(3) 検討
上記のとおり,刊行物2記載の技術は対象物体に色マーカーや発光部を取り付けることを想定していないものであり,他方,刊行物3記載の技術は入力手段(筆記用具)に再帰反射部材を取り付けるものであって,両者は,マーカー(再帰反射部材)の取付けについて相反する構成を有するものである。したがって,刊行物1記載の発明に,刊行物2記載発明と刊行物3記載発明を同時に組み合わせることについては,阻害要因があるというべきである。よって,「本願発明は,刊行物1記載の発明,並びに,刊行物2及び刊行物3に記載された技術に基づいて,当業者が容易に発明できたものである」(9頁28~30行)とした本件審決の判断は,誤りである。

(4) 被告の主張について
 被告は,刊行物2の段落【0021】は,使用者の「手や身体の一部に色マーカーや発光部を取り付け,画像によりそれらを検出し,手・身体の形,動き」を認識する場合においては,「操作の度に装置を装着しなくてはならない」こと等が問題であることを説明するもので,手や身体の一部にマーカー等を装着する場合における問題を説明するものにすぎず,手や身体以外の物品等にマーカー等を装着する場合について述べたものではないから,本件審決が,刊行物2記載の技術を適用するとしている刊行物1記載の発明は,「ゴルフボール13とゴルフクラブ34の外形形状」を認識対象とするものであって,上記問題は無関係であり,原告が主張するような組合せ阻害要因はないと主張する。
 しかし,上記(1)のとおり,刊行物2記載の技術は,色マーカーや発光部を取り付けることを想定していないから,被告の主張は採用できない。

3 以上のとおり,原告主張の取消事由1-2及び取消事由4には理由があるから,審決は違法として取り消されるべきである。」

第2 私のコメント
知財高裁平成24年7月17日判決・平成23年(行ケ)10098号(ストロボスコープを使った入力システムを備える情報処理装置)は、以下に述べるような2つのタイプの阻害要因を認めました。

1.本判決の判断(2つの阻害要因)
本判決の判断は次の3つに纏められます。

(1)相違点1については、主引用発明(刊行物1)に副引用発明a(刊行物2)を適用することが容易だから審決の判断に誤りなし(実はこの点は、本判決中の裁判所の判断では明示していないのですが、以下の検討のため入れておきます)。

(2)相違点3については、主引用発明(刊行物1)に副引用発明b(刊行物3)を適用するには阻害要因があるから、審決の判断は誤り。

(3)相違点1についての副引用発明a(刊行物2)と相違点3についての副引用発明b(刊行物3)とは互いに相反する構成を有するから、主引用発明(刊行物1)に副引用発明a(刊行物2)と副引用発明b(刊行物3)とを「同時に」組み合わせることには阻害要因があるから、審決の判断は誤り。

2.検討
上記1(2)の阻害要因は、ある1つの相違点の容易性判断に関して、主引用発明と副引用発明との組合せには阻害要因があるとするもので、従来からよく見る阻害要因の通常のパターンです。

これに対して、上記1(3)は今までに無い新しいタイプの阻害要因だと思います。

つまり、上記1(3)は、本件では上記1(2)のとおり既に相違点3についての審決の容易性判断が誤りとされたのですが、仮に相違点1についての審決の容易性判断も相違点3についての審決の容易性判断も共に誤りが無いとしても、それらの2つの判断を総合すると全体として誤りとなるような阻害要因がある、としたものです。

3.本判決が提示した新しいタイプの阻害要因
話を単純化するために、次のような仮定の事例を設定してみます。

審決取消訴訟の対象となった審決中の2つの容易性判断
(a)相違点Aについては、主引用発明に副引用発明aを適用する動機付けがあるので容易に想到できた。
(b)相違点Bについては、主引用発明に副引用発明bを適用する動機付けがあるので容易に想到できた。

このように、2つの相違点A,Bの各容易性判断毎に、それぞれ引用される副引用発明をa,bというように互いに異なるものとしてもよいことは、従来の実務から、当然の前提です。

そして、もし裁判所において上記(a)と(b)とが、それぞれ、いずれも妥当だと考えたなら、従来なら、それで終り(審決は違法でない)でした。

しかし、本判決では、もし裁判所において上記(a)と(b)とがいずれも妥当だと考えたとしても、なお、審決の容易性判断に誤りがある場合がある、としました。

それは、上記の相違点Aについての副引用発明aと、上記の相違点Bについての副引用発明bとが、互いに相反する構成を有している場合です。

「互いに相反する構成を有している場合」とは、相違点Aを備えるために主引用発明に副引用発明aを適用すると主引用発明に副引用発明bを適用できなくなり、逆に、相違点Bを備えるために主引用発明に副引用発明bを適用すると主引用発明に副引用発明aを適用できなくなるような場合です。

そのような場合は、そもそも本件発明に到達するためには複数の相違点A,Bを「同時に」備える必要があるところ、前述のような互いに相反する構成を有する副引用発明a及びbを「同時に」主引用発明と組み合わせることには阻害要因がある、だから、仮に上記(a)及び(b)のような複数の相違点A,Bについての各容易性判断がいずれも妥当だったとしても、なお本件発明全体の容易性判断としてみれば阻害要因があるので審決の判断は誤りであるということです。

よって、本判決から、「相違点Aについての副引用発明aと相違点Bについての副引用発明bとが相反するときは発明全体の容易性判断(複数の相違点を横断的に総合した判断)として組合せの阻害要因がある」という新しいテーゼが提示されました。

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