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知財裁判例紹介:
アップルvsサムスンの特許(第4204977号)侵害訴訟東京地裁平成23年(ワ)第27941号・平成24年8月31日判決

1.アップルがサムスン電子を訴えた損害賠償請求(スマホ等とPCの同期機能に関する特許4204977号の侵害を理由とする損害の一部請求)を棄却した東京地裁平成23年(ワ)第27941号・平成24年8月31日判決を斜め読みしてみました。
ポイントは特許クレーム(問題になった請求項11を末尾に引用しておきます)の解釈と被告製品への当てはめで、クレーム解釈について原告側がしつこく食い下がるのを裁判所が丁寧にかわしていたという感じでした。議論は多岐に渡っていましたが、以下では、参考になると思われた3点について記しておきます。

2.クレーム中の「メディア情報」の解釈本件特許の請求項11(以下、本件特許クレーム)は、「メディア情報」という特殊な用語を使用して、スマホ等の「メディア情報」とPCの「メディア情報」とを比較して両者が不一致の場合に両者が一致するようにシンクロ処理を行うと規定しています。
これに対して被告製品は、「ファイル情報」の一つである「ファイル名及びファイルサイズ」がスマホとPCで同一かどうかで音楽ファイルのシンクロを行なうかどうかを決めていました。
そこで、少なくとも被告製品がスマホ等とPC間において比較している「ファイル名及びファイルサイズ」が本件特許クレームの「メディア情報」に含まれるかどうか、が争点になりました。被告製品が使用している「ファイル名及びファイルサイズ」(ファイル情報の一種)が本件特許クレームの「メディア情報」に含まれるなら本件特許(方法発明)の間接侵害に該当、含まれないなら非侵害となります。
そして、この点について、裁判所は、次のように「メディア情報」を限定的に解釈し、被告製品における「ファイル名及びファイルサイズ」は本件特許クレームの「メディア情報」に含まれないから、被告製品は本件特許の間接侵害には該当しないと判断しました。

「ウ 本件発明における「メディア情報」の意義(中略)
これらの特許請求の範囲及び本件明細書等の記載からすると,本件発明における「メディア」ないし「メディアアイテム」とは,音楽,ビデオ,画像などのメディアプレーヤーで再生可能なコンテンツを意味し,「メディア情報」とは,そのようなメディアないしメディアアイテムの属性又は特徴をいい,そこに少なくともタイトル名,アーチスト名及び品質上の特徴を備えるものをいうと解することができる。(中略)
(イ) そうすると,本件発明における「メディア情報」とは,一般的なファイル情報の全てを包含するものではなく,音楽,映像,画像等のメディアアイテムに関する種々の情報のうち,メディアアイテムに特有の情報を意味するものと解するのが相当である。」

3.被告製品の機能についての事実認定
原告は、被告製品は「メディア情報」の一種である「総時間」(品質上の特徴の一つ)をスマホとPCとの間において比較してメディアアイテムのシンクロ処理をしているという事実を主張し、だから被告製品は本件特許の間接侵害に該当すると主張しました。
しかし、裁判所は、次のような事実認定を行なって、原告の上記事実主張を否定しました。

「(2) 「総時間」による比較について
原告は,被告各製品及びパーソナルコンピュータが,本件発明の「メディア情報」の一種である「品質上の特徴」に含まれる「総時間」を比較して,メディアアイテムのシンクロ処理をしているとして,被告方法は構成要件G1及びG2を充足すると主張する。
しかし,前記第2,2(5)イ記載のとおり,被告各製品は「Kies」というソフトをインストールしたパーソナルコンピュータとの間で,保存してある楽曲ファイルのシンクロを行うもの(被告方法)であるところ,証拠(乙1ないし6,8及び9)によれば,被告各製品は,「Kies」というソフトをインストールしたパーソナルコンピュータとの間で音楽ファイルのシンクロを行うに当たり,ファイル名とファイルサイズを用いて,それぞれの音楽ファイルの一致・不一致を判定しているものであって,タイトル名,アーチスト名及び総時間の比較を行っておらず,音楽ファイルのタイトル名,アーチスト名及び品質上の特徴である総時間の全てが異なっても,ファイル名及びファイルサイズが同一である限り,音楽ファイルのシンクロが行われないことが認められる。
この点に関して,甲10,11,19,26,30及び31に示されたテスト結果によれば,一見すると被告各製品が,パーソナルコンピュータとの間でシンクロを行う際,メディアアイテムのタイトル名,アーチスト名及び総時間を比較しているようにみえ,この点で,上記乙1ないし6,8及び9のテスト結果と矛盾する。しかし,上記各甲号証のテストで用いられたタイトル名,アーチスト名又は総時間が異なるメディアファイルについて,それぞれのファイルサイズが同一であることは何ら示されていない。そうである以上,上記各甲号証においては,ファイルサイズを比較することによって一致・不一致を判定している可能性も否定できないから,上記各甲号証を根拠として,被告各製品が,原告が主張するように,総時間を用いてメディアファイルの一致・不一致を判定していると認めることはできないというべきである。
よって,被告方法において,「総時間」の比較によってメディアアイテムのシンクロがされているとの原告の主張は採用することができない。」

4.明細書本文に「および/または」とありクレームに「および」とある場合の解釈
原告が明細書本文には「および/または」とあるからクレーム(「および」だけがある)も同じように解釈すべきだと主張したのを、次のように述べて退けました。まぁ当たり前なのですが。

「(イ) また,原告は,本件明細書等の段落【0020】及び【0021】には,シンクロを行うべきか否かを判断するためにメディアファイルについて記憶された全ての情報が比較される必要がないことが明記され,シンクロを行うべきか否かを判断する際に,メディアファイルに関する属性のいくつかが比較される実施態様について記載されているから,被告が主張するように「メディア情報」に最低限含まれるタイトル名,アーチスト名及び品質上の特徴の全てが比較されることは前提とされていないと主張する。
確かに,本件明細書等の段落【0020】には,「・・・プレーヤーメディア情報は,ホストコンピュータ上のメディアデータベースからの第1メディア情報と比較される。・・・例えばメディアアイテム(例えば曲を表すオーディオファイル)は,曲目,アルバム名,および/またはアーチスト名のような,そのメディアアイテムの特徴または属性に関するメディア情報を用いて比較されえる。」と記載され,「または」との文言が用いられており,また,段落【0021】には,「メディアプレーヤー上のメディアアイテムに関するメディア属性(例えばタイトル,アルバム,トラック,アーチストおよび作曲家)が,ホストコンピュータ上のメディアアイテムに関する同じメディア属性に全て一致するなら,異なるデバイス上に記憶された2つのメディアアイテムは,さらなる属性または特徴がこれらのメディアアイテムが互いに完全な複製でないと判定されえるとしても,同一であるとみなされえる。」と記載されており,特定のメディア属性が一致する場合に,他の属性又は特徴が一致せず,完全な複製でないと判定されるときでも,同一とみなされる(すなわち,シンクロされない)ことがあり得ることが示されている。
しかし,上記アのとおり,本件発明の特許請求の範囲の記載からは,構成要件G1及びG2におけるメディア情報の比較は,「メディア情報」に最低限含まれるタイトル名,アーチスト名及び品質上の特徴の全ての比較を要求していることが一義的に明らかであるから,原告が指摘するような本件明細書等の記載をもって,特許請求の範囲の文言を無視して,同文言を別異に解釈しなければならないものではない。」

5.終りに
本件ではクレーム中の「メディア情報」の解釈が最も大きな論点だったようですが、この点について控訴審で別の解釈がなされる可能性は余り高くないと感じました。
また、原告は、均等論、例えば被告製品における「ファイルサイズ」(ファイル情報の一つ)が同一かどうかによるシンクロ処理が、特許クレームにおける「総時間」(メディア情報の中の品質上の特徴の一つ)が一致するかどうかによるシンクロ処理と均等だという主張を、第一審では出さなかったようです(少なくとも判決には出ていません)。しかし、仮に主張しても、置換可能性と置換容易性は認められるとしても、相違する部分が特許発明の非本質的部分であるという要件(均等の第1要件)が認められない可能性が高いでしょう。

特許第4204977号の請求項11:
メディアプレーヤーのメディアコンテンツをホストコンピュータとシンクロする方法であって,前記メディアプレーヤーが前記ホストコンピュータに接続されたことを検出し,前記メディアプレーヤーはプレーヤーメディア情報を記憶しており,前記ホストコンピュータはホストメディア情報を記憶しており,前記プレーヤーメディア情報と前記ホストメディア情報とは,前記メディアプレーヤーにより再生可能なコンテンツの1つであるメディアアイテム毎に,メディアアイテムの属性として少なくともタイトル名,アーチスト名および品質上の特徴を備えており,該品質上の特徴には,ビットレート,サンプルレート,イコライゼーション設定,ボリューム設定,および総時間のうちの少なくとも1つが含まれており,前記プレーヤーメディア情報と前記ホストメディア情報とを比較して両者の一致・不一致を判定し,両者が不一致の場合に,両者が一致するように,前記メディアコンテンツのシンクロを行なう方法。

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